システマ教室も早や6回目となる。
当初の新鮮さや感動は、いまや焦りと落胆に変わっている。
教えてもらったことができない、できている気が全くしない、できるようになる気が全くしない、という焦りと落胆である。
環境や人には少し慣れてきたのだが、自分の実力が伴わない。
今日の練習は呼吸しながら室内を歩くことから始まった。
その後は前回同様、仰向けになって腕と脚を挙げて肩甲骨と骨盤を使って進む練習である。
「力んだり勢いをつけないで、light breathingを繰り返して自分の中の快適さを保ちながら進んでください。」
先生の指導の通り、力まずに進むが私がやるととにかく遅い。
「競争ではありませんから」
という先生の言葉の通り、ゆっくりやっていたらビリっけつになり、途中で終了になってしまった。
次は長座になって、骨盤のみで歩く練習。これはまだやりやすい。しかし私の場合右が前に出にくい。これは興味深い発見であった。なんでだろう、と考えるが思いつかない。後でわかったが、左股関節の外旋が硬いからだと思い当たった。
次はペアになって、片方が相手を押し、もう片方が相手をいなす練習。light breathingを繰り返し、力と力がぶつかることなく、相手をいなすというか自分が最適なポジションに移行するのが目的なのだと思うが、まったくできている気がしない。
そして、片方が相手を引き倒そうとし、もう片方が呼吸を使って相手をいなすという練習に移る。これもlight breathingを繰り返すのが基本。
「相手の力が自分に入ってきて、それをそのまま流す」
記憶が定かではないが、先生はそのようなことを言われていた。一瞬できたような気がする時があるが、その感覚はすぐさまどこかに飛び去って行ってしまう・・・。
「あなたは待ってしまっている。そうではなくてすっと入る。」
と指導されるが、なかなかどうしてできるものではない。そして、慎重に過ぎるきらいのある自分の性格を言い当てられている気がして気恥ずかしかった。
次はストライクの練習。ストライクとはいわゆる打撃全般のことだと思われる。本日は特に拳での打撃を行った。
これはなかなか難しい。まず私は(ほとんどの日本人はそうだろう)拳でものを打つということをほとんどしたことがないので、拳のどこを当てたらよいのかもわからない。
拳立て伏せを繰り返し行ったが、ポイントとしては拳面全体がぺちゃっと地面に着くこと、力まないこと、体重とか地面を拳に感じること、そして筋力でプッシュアップするのではなく全身というか呼吸を使ってプッシュアップすること、であるという。私の手首のもろさも指摘されたが、これは拳立て伏せなどで鍛えないとなかなか強くはならないだろう。
子供の頃に大山倍達に憧れて空手の教本を買ったことがあるが、その本には「正拳突きにおいては人差し指と中指の拳を相手に当てる」と書いてあったので、それに倣って自己流で拳を鍛えたこともあった。しかしシステマでは特定の拳を使うという発想はないらしい。
言われた通り、拳面全体が「ぺちゃっ」と着くように拳立て伏せを行うが、何回か行うともう拳が痛くてたまらない。きっと余分な力みがあるのだろうとひとり納得していた。
「リラックスして拳立て伏せをして地面を感じた時のイメージのままに相手を打ってみてください。腕の重みを感じてください。」
という先生の指導のもと、再びペアを作りストライクの練習。
まず私が相手を打ってみるが、相手に力が浸透してないことが自分でもよくわかる。手先で力んでいる感じだ。しかし先生がストライクすると、まったく力んでいないのにものすごい音と衝撃がある。
先生からいくつかの指導をいただく。
「拳が先導するが、その前に呼吸。拳に意識を集中しない、足は踏ん張らない、呼吸が体幹から拳に流れていく感じ、腕だけで打つのではなく、体全体が一塊となる感じ。肩は入れない、体も回さない。すっと握手する感じ。」
ああ、なるほど。体全体が波打った結果、たまたま末端にある拳が相手に当たる感じかな?確かに腕だけで相手を押すと、作用反作用の法則で自分が相手から遠のいていくだけだな・・・。
「踏ん張らない」という指導に驚いたので先生に質問した。
「打撃の時は踏ん張って、脚の力を手に伝えるのが良いと思っていましたが違うのですか?」
と言うと
「踏ん張ると、一か所に居ついてしまう」
とのこと。
ああ、なんとなくわかる気はする。体が一か所にロックされてしまうのではなく、体は安定した姿勢を取りながら自由に動き続けるイメージかな?
この「居つく」という言葉は私がこれまで読んだ武術の本で頻繁に出てきた言葉である。私も正確には理解していないが、武術の世界ではとにかくNGの代表みたいに言われるのが「居ついた」状態だ。おそらく、一か所に捉われてしまい自由に動けない状態のことなのだろうと思う。
システマでも「居つく」って言うんだな、と面白く感じた。
なんとなく、システマの根幹みたいなものはおぼろげながらわかってきた気はする。
・すべての前に呼吸がある。
・呼吸によって全身がつながる、バラバラは良くない。
・何事も一点に集中しない。意識も視線も全体を見渡すように分散させる。
・相手がどうであろうと、常に自分は変わらない。常にリラックス、light breathing。
打つ場所は胸だけではなく、背中、肩、腹、どこでもよい。しかし腹を打たれるのは怖い。怖いから腹筋を思い切り固めてしまう。しかしシステマ的にはあくまでも力まない、light breathingで力を逃がすというか軟らかく吸収する。力まないように先生にお腹を踏んでもらうが、それでも怖くて固まってしまう。
最後に、練習生が入り乱れてストライクを打ち合い、打撃を逃がすという練習。
ついエキサイトしてしまう人が多くてなんだか可笑しかった。
練習が終わった後、師匠各のおひとりに何か良い自主練習はないかと尋ねたところ
「プッシュアップ、スクワット、シットアップ、レッグレイズ。筋肉で行うのではなく、腱を使う。腱の張力を利用する。そして何よりも呼吸が先導する。」
と教えていただいた。
この教えも私の心に深く響いた。私の愛読書である『プリズナートレーニング/ポール・ウェイド著』は筋力トレーニング、それも自重トレーニングに巨大な愛を捧げた名著であるが、「筋力を使わない」というのはこれとは真逆の発想である。筋力ではなく腱の張力を利用するというのも、以前武術の本で読んだことがある。
システマの徒となった今、私は筋力トレーニングではなく、呼吸と腱の力でプッシュアップの練習をしようと思う。
練習後の振り返りの時に「プッシュアップ頑張ります」と言ったところ、早速先生方から「まずは呼吸です」と突っ込まれ、自分の浅はかさをいささか恥じた。
最近は(最近も?)システマの練習のたびに、何かが上達するという感覚はほぼなく、自分の勘違いに気付かされ驚くことが多くなった。
本日気づかされた勘違いを列挙してみよう。
・拳はガチガチに握って鍛えるものではない。拳面全体を使う。あくまでもリラックスすること。
・みぞおちを打たれるときもあくまでリラックス。腹筋をぎゅっと固めない。
・踏ん張ることは良いことだと思っていたが違う。
・プッシュアップなどの運動を行う目的は筋トレではなくて、腱と呼吸を使って楽に動くこと。
考えてみればこうした勘違いに気付くことも大切なことだ。
まず間違った思い込みをひとつひとつ取り除いていく。そうしてからでないと新しい知識は入っていかないからだ。
今は何が何だかわからない状態であるが、あきらめずに通い続ければ必ず次のステージに行ける。そう自分に言い聞かせつつ、今日は立ち飲み屋で一杯ひっかけたのであった。
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