初心忘るべからず~骨棘に思う~

エッセイ

どうにも右踵が痛い。

しばらく座って仕事をした後の動き初めに右踵の内側あたり、内側縦アーチの腱付着部あたりが痛む。

典型的な足底腱膜炎の症状だが、このままランニングを続けても改善する気がしない。

骨棘ができていたら少し厄介だ。

骨棘というのは加齢に伴う変性や炎症によって生じる骨組織の異常な増殖であり、トゲのように見えることからこの名前がついている。

自分の体を知ることが出発点であると考え、MRIとレントゲン検査を受けた。

すぐに受診できるところが病院勤めのメリットである。

レントゲンを見ると、右踵に骨棘ができているではないか。

さすがに、少しショックを受けた。

骨棘が溶けてなくなることは基本的にはない。

重ねてしまった年齢が減ることはないのと同様に、骨棘も消えることはない。

アラフィフのわが身を顧み、「初老」という言葉が頭をよぎる。

しかし、私はアラフィフの初心者なのだなと思い直す。

思い出すのは「初心忘るべからず」という有名な言葉だ。

出典は意外と知られていないと思うが、実は室町時代の能楽の大家である世阿弥の著書『花鏡』の中の言葉である。

『花鏡』の原典には次の3つの文章が出てくる。

是非の初心忘るべからず。

時々の初心忘るべからず。

老後の初心忘るべからず。

初めの文章は「若かったころや初心者だったころの謙虚な気持ちや新鮮な気持ちを忘れてはいけない」という意味であり、現代人になじみ深い教訓である。

二番目、三番目の文章は「熟練するにつれても、それぞれの段階において初心者である。老いた時ですら、老人一年生である。」という意味にもとれるし「老いて初めて演じられる芸もある」という意味にもとれる。

そして、どちらの解釈も非常に前向きな態度である。

小学校入学、中学校入学、就職、昇進。

振り返ってみれば人生は常に新しいことの連続である。

アラフィフ、骨棘出現(!)という時期を私は今初めて経験しているわけである。

どういう風にこの局面に対峙するか、新鮮な気持ちではある。

仲の良い理学療法士さんに足を診てもらったところ

「先生、足裏も足首も硬いわ~」

と驚かれた。

終わりなき肉体鍛錬の旅路を行く私だが、しばらくは筋トレよりもストレッチに重点を置こうと思う。

好きなランニングはもちろん、無理のない範囲で続けるつもりである。

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