足を痛めて学んだこと

a person holding his foot 足と靴と地下足袋の科学
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1.私が足を痛めた経緯

私はもともと体を鍛えることが好きであったが、ランニングを始めたのは比較的遅く、記録上は2020年11月11日となっている。

ちなみにこの時の記録は距離1.4km、ペースは8分34秒/kmである。

初めは通勤用のカジュアルシューズで走っていたが、すぐにアディダスのランニングシューズを手に入れた。

私は元々走ることが大嫌いであった。こんな単純な運動の繰り返しのどこが面白いのかと思っていた。私が走ることの楽しさに目覚めた経緯は『はじめに』を参照されたい。

走り方についての知識がゼロであったので、初めはヒールストライクで走っていた。

ほどなくして膝を痛めてしまい、このとき初めてランニングの勉強をすることになる。

着地の仕方にはフォアフット、ミッドフット、リアフットの3種類があることを知り、足の衝撃吸収機能を利用するためにはミッドフットが良さそうだと考えた。

さらに『BORN TO RUN 走るために生まれた』という書籍を読み、ベアフット(裸足)ランニングの存在を知る。

端的に言うと、この本の著者はミニマリスト指向が強く、自然主義者であり、テクノロジーの粋を集めて作られた現代的なランニングシューズに対して明瞭に否定的な立場をとっている。

多くの人がそうであるように、私も若いころは元気で健康だったので自分の足に対して注意を払うことはなかった。

ランニングを初めてラーニングフォームに悩み始めた私は、『BORN TO RUN 走るために生まれた』の自然主義的かつ革新的な思想に強く共鳴した。

しかし実際に街中を裸足で走ると石ころやガラス片で足を傷つける恐れがある。

そこでベアフットに近い履物として地下足袋の存在を知り、普段履きとランニングに地下足袋を使うようになった。

ヒールストライクを止め、足裏全体で着地するミッドフット着地を心がけて練習を重ねると、足の構造を生かすことを意識して走るようになった。自分なりにそこそこ上手に走れるようになったと思う。

5分20秒/km程度まで速度も上がり、走ること自体が楽しみになってきたが、走り始めて2年以上が経過し1回の走行距離が15kmを超えるころに足底の痛みが出現した。

これが2023年4月ころのことである。

2.足の解剖といくつかの病的状態

さて、ここで足の解剖について少し詳し目に解説する。

なぜなら足の解剖を理解できないと、足の痛みの原因や痛みを回避するための対策を理解できないからである。

趾節骨:拇趾は2個、それ以外は3個ずつ

中足骨:5個

足根骨:5個(第1~3楔状骨、舟状骨、立方骨)

距骨、踵骨

以上計25個の骨で足は主に構成されている。他にも種子骨などがある。

そして足底にはいくつかの筋肉と足底腱膜が存在する。

また生理学的な形状として足底には三つの足弓(アーチ)がある。内側縦アーチ、外側縦アーチ、横アーチである。

これら3つのアーチが接地時の衝撃を吸収してくれる。

内側縦アーチが潰れてしまうと偏平足、横アーチが潰れると開帳足、内側縦アーチが通常より高いと凹足(いわゆるハイアーチ)となり、いずれも異常な形態である。

偏平足になると接地時の衝撃吸収機能が落ちて足底や足関節を痛める。

また足の内側の高さがなくなるので踵部内反となり内側荷重となりX脚を誘発する。

開張足になると足趾の付け根(中足骨遠位端)が5本すべて地面に着き、趾先が地面に着きにくくなるいわゆる「浮きゆび」となる。結果として足趾の付け根の痛みが発生し、同部位に魚の目(胼胝)も発生する。さらに足趾に体重を分散させられなくなるので後方重心となり姿勢や歩行のアンバランスにつながりうる。

凹足になると足底筋の緊張が高まりやすく足底の痛みが生じやすい。

3.私が足を痛めた原因

まず、私の足の特徴について述べる。

女性であればおしゃれで可愛い靴を履きたいという人が多いと思われるので、自分の足の形状に関心を持つかもしれないが、私は自分の足の形状についてまったく無関心であった。

靴についてもほとんど無関心であった。

若い頃は健康に何の問題もなかったしお金もなかったので、靴選びの基準は安さが第一、デザインや色は無難なもの、履き心地はサイズさえ合っていれば問題なし、というものであった。

自分の足が細めであることは家族との比較である程度知っていたが、甲高であるということは最近靴屋さんに指摘されて初めて知った。

多くの日本人の足は幅広かつ扁平であるという。私の足は幅が狭く甲高なので、日本人らしくない。

靴屋さんで売られている靴は日本人の足の形に合わせてあるので、基本設計は甲が低く幅広の足用にデザインされている。したがって私はこれまで基本的に自分の足の形状とは合わない靴を履いていた可能性がある。

つまり、私は生まれてからこの方自分の足に合わない靴を履くことで自分の足を痛めてきた可能性がある。

次に年齢の問題がある。

私は1970年代生まれであり初老と言われても文句の言えない年齢となった。

加齢とともに筋も腱も硬くなるし筋力は低下する。これは避けられないことである。

最後に、ランニングを継続したことによって生じたオーバーユース(使い過ぎ)が挙げられる。

単純にオーバーユースによる痛みに加えて、足の形状の変化が加わった可能性がある。

私の足は甲高なので足底筋が緊張しやすい。オーバーユースによって足底筋がさらなる緊張を強いられ、足底腱膜炎が発症した可能性が高い。

また最近、理学療法士に指摘されたことなのだが私の足の横アーチはつぶれ気味である。つまり開帳足気味なのである。

ランニングを継続したことによって足にダメージが蓄積し、3年目になってついに疼痛が発生した。

開張足のために足趾の付け根が痛む。

そして凹足のため足底筋が過緊張して足底腱膜炎を誘発した。

アーチのサポート機能のない地下足袋を履いて走り続けたことも痛みの発生に影響していると考える。

以上が私の足底痛についての診断である。

4.解決策

足の痛みの原因が明確になれば対策も立てられる。

①靴選び

まずは自分の足の特徴を知った上で、自分の足にフィットした靴を選ぶこと。

先日私が実行したようにシューフィッターに靴を選んでもらうのも良い。

そして丁寧に靴を履くこと。具体的にはしっかりとヒールカップに踵を入れ、足を包み込むようにアッパーを足にかぶせ適切な強さで紐を結ぶ。

②装具の使用

医師の処方による足底板を使用する方法がベストかもしれないが、軽症であれば100円ショップで売られている靴用パッドを利用して、アーチを支える工夫をすることができる。また既製品のインソールを利用してみるのもよい。

③足底筋のトレーニング

加齢とともに筋肉は痩せていくがトレーニングを行えば筋肉は太くなる。

簡単なトレーニング法を紹介する(バレーボール競技での足関節捻挫に対するリハビリテーション(解説)小林 佑介(阪奈中央病院 スポーツ関節鏡センター), 奥野 修司. MEDICAL REHABILITATION(1346-0773)269号 Page61-66(2021.12))。

・足を地につけて椅子に座るか、あるいは立った姿勢で、第2~第4足趾の背屈運動を繰り返す。

・中足趾節関節(足趾の付け根)のみを底屈させる運動を繰り返す(いわゆるタオルギャザーと同様の効果)。写真はActive winner社のトレーニングチューブを用いている。

・入念な足のストレッチ

足趾1本1本の曲げ伸ばし、足首の背屈底屈など。ストレッチについては記事を改めて書く予定である。

④走り方の見直し

私は文字通り駆け出しの市民ランナーなので、ランニングフォームについて多くを語る資格を持たない。

今回の足痛のおかげでランニングフォームについていろいろ勉強させてもらったが、そもそも長距離走における最適なフォームについて結論は出ていないようである(Front Sports Act Living. 2020 Aug 6;2:102. doi: 10.3389/fspor.2020.00102. eCollection 2020.Men’s and Women’s World Championship Marathon Performances and Changes With Fatigue Are Not Explained by Kinematic Differences Between Footstrike Patterns)。

歩行については歩行分析の理論は確立しているようだし実際に何冊も教科書が出版されている。しかし走行分析についてはインターネットで調べても教科書を見つけることができなかった。

また接地ひとつについてもフォアフットかミッドフットかという議論は長年にわたってマラソン界で結論が出ていない問題であり、私のような素人が口を出せる問題ではないこともよく分かった。

好きなランニングを続けるために私ができることは、極力足裏と膝に負担をかけないソフトランディングを心がけて走るということだけである。必然的にスピードは二の次になる。

5.自然主義指向の罠

BORN TO RUN 走るために生まれた』に私は強く影響を受けたが、その理由は私が自然主義指向を持っているからである。

「自然である」ということはほとんどの場合良い意味で用いられる。

しかしそもそも現代の都市文明は不自然な構造物で埋め尽くされている。

硬いアスファルトは、その上を裸足で歩くことには適していないが、砂ぼこりが立ちにくいし大型トラックの重量に耐える。

農業、医療、物流、保存など様々なテクノロジーの発達によって日本人の寿命は80歳を超えているが、人間の肉体に本来備わっている耐用年数は原始時代からほとんど延びていないと思われる。

仮に本来備わった肉体の耐用年数を長めに見積もって50年としても、残りの30年を快適に過ごそうと思ったらテクノロジーの力を借りざるを得ないと私は考える。

そこまで入り組んだ考え方をしなくても、テクノロジーを利用して快適に生きているという感覚は現代人にとってはむしろごく普通のことであろう。

BORN TO RUN 走るために生まれた』を読んで実際にベアフットランニングを始めた人の中に、怪我をした人が一定数いたという記事を読んだが(Sports Graphic Number Do.vol.37.2020.p57.)これはもはや自然とは言えないアスファルトの道路を、自然な裸足で走った結果であろう。

これは自然主義指向の罠に陥った例と言える。

副作用の心配がないのであれば、テクノロジーをふんだんに利用すればよい。

ただし、食生活や運動によって肉体そのものの機能の維持向上に努めることが前提である。

6.地下足袋に優位性はあるか

地下足袋の可能性については私がもっとも関心を寄せるテーマであるし、別途詳しく考察するつもりなのでここでは簡単に触れるにとどめる。

機能面に着目すると、地下足袋の特異性は「二股に別れた爪先」のみである。

ソールの厚さはいかようにも変えられるから、ソールの薄さを持って地下足袋の特異性とすることには無理がある。

この「二股に別れた爪先」が履く人の身体に何をもたらすのか。

私が検索した限り、この点についてはほとんど研究がなされていないようである。

即にと思いつくのは、外反母趾および内反小趾の予防、制動性の向上、足と靴の固定性の向上、履物による足への締め付けの緩和の4つである。

ちなみに、私が初めて地下足袋を履いたときに感じた心地よさの理由はふたつあると考えている。

ひとつは、私の足の形態の特殊性のためこれまで自分の足に合った靴を履いたことがなかったが、地下足袋を履いたときに初めて自分の足にフィットする外履きに出会ったということ。

もうひとつは地下足袋の特異な爪先の形状が、靴紐に依存せずに足と履き物との固定を実現し、その結果フィット感とともに足の解放感を感じたということ。これは鼻緒のついたサンダルがもたらす心地よさと同様である。

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